小説・漫画好きの感想ブログ

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D-魔道衆 吸血鬼ハンター19  菊地秀行著

 こんばんは、樽井です。
 明日も休み、嬉しいな。なんか散髪が失敗したのか妙に首筋が寒くてちょっと風邪気味なだけに、熱いお湯に入って二日ほどのんびりと出来るのは嬉しいものです。ぼつぼつと本を読んだり、今年の残りあと二ヶ月でどんな風に仕事をやっていこうかなぁとかあれこれ考える時間があるというのはいいものです。
 若者のときは、露天風呂ってそんなに嬉しいものでもなかったんだけれど、年齢とともにか身体はぽかぽか顔は涼しい外気のもとで景色を眺めるのがいいものになってきました。そのうち、お湯につかって「くーーー」っていったり「極楽極楽」と言い出すかもしれません。←これいうと、おじいちゃんおばあちゃんに近いようです。
 さて。
 今日は、久々に吸血鬼ハンターDを。

 D-魔道衆 吸血鬼ハンター19  菊地秀行

 吸血鬼が貴族として人間を支払いしているこの作品世界では、吸血鬼は圧倒的な科学力と能力、そして妖力で人間の上に君臨しています。腕力でも、武器でも、魔力でも、人間は彼らにまったく敵いません。逆らって町一つ、村一つが虐殺の上全滅させられることもしばしばあります。そんな世界で、彼らに唯一勝てる存在が、吸血鬼ハンターとよばれる超常能力をもった賞金稼ぎの戦士たちです。
 人間であるのに、人間以上の力や技術、超能力をもった吸血鬼ハンターたち。彼らの平均生存期間は二年余り。それくらい割にあわない、分が悪い勝負ですが、それでも彼らは金のため、信念のため戦います。その吸血鬼ハンターの中でも一番凄腕の吸血鬼ハンターと知られるのが本編の主人公、Dです。
 絶世の美貌を持つこの男は、吸血鬼と人間のハーフ(ヴァンピール)であり、今迄も数多くの吸血鬼を滅ぼしてきた伝説の吸血鬼ハンターです。彼は、なみの貴族など歯牙にもかけぬ力と技術をもちます。自分の事はもちろんあまり喋らず、彼の代わりに喋るのは左手に寄生した人面疽です。
 辺境をさまよい、行く先々で貴族たる吸血鬼を倒し続ける吸血鬼ハンターD
 このシリーズはこの基本設定を変えず、作品ごとに主人公以外の登場人物がすべて一巻読み切りで出てこないというスタンスをずーっと続けています。それなのに、本当に息が長く、この19巻目で、かれこれ二十年以上は続いています。なにせ第一作はアサヒソノラマでしたが、そのソノラマ文庫も廃刊となり、今回は朝日文庫のソノラマレーペルという所から出ているといえばその長さがわかるでしょうか。
 さて。
 今回のDも、その基本路線はかわらですが、著者の菊地秀行さんの中で何かが変わったのか、今迄以上に密度の濃い、アイデアを出し惜しみせず盛り込んだ作品となっています。ここしばらくのDの中では、一番いい出来になっています。むしろ、アイデアを盛り込みすぎて、伏線が伏線として残ったままだったり、かなり戦闘シーンを削ったあとも見えて、長いのを短く削り込んだ感じでよい出来になっています。クライマックスにむけて盛り上がっていく通常のスタイルとは違う、菊地秀行氏独特の見せ場がずっと横滑りして繋がっていくスタイルは変わりませんが、そのそれぞれのシーンや戦闘のアイデアが今回は盛りだくさんでした。
 また今回は主人公と対決する大ボスの貴族たちのキャラクター造詣が今迄になく踏み込んだもので、単なるやられ役ではなく、平板な感情の起伏に乏しい貴族ではなく、非常に感情移入できるキャラクターになっており、そこも読みどころの一つです。人間と貴族の間をつなぐものの研究に自身を捧げつつも、その過程での人間の犠牲者のために苦悩し精神をも病んでいくドラゴ大公、貴族でありながらも人の血を吸わないジュヌヴィエーヴ伯爵夫人。そして、本来の敵役であったはずなのに影のうすいゼノ・ギリアン。彼らへの書き込みなどが今回はいつも以上に冒険エンタティナメントとしての完成度を高めています。
 ソノラマ文庫でデビューした菊地秀行の、ソノラマ文庫への想いを感じられる一冊です。