「キノの旅 11」 時雨沢恵一著
大前提として「キノの旅」は非常に素晴らしい小説です。
ライトノベルという枠組みやイメージで手をつけないのは勿体ない話です。
そんなわけで、自分は第一作からずっとこの時雨沢恵一の「キノの旅」を読み続けているのですが、今回も面白い一冊に仕上がっていました。いつものごとくに、三日間の滞在で次の国へ移るという独自ルールのもとに旅をつづけるキノと、その相棒といっていい喋るバイク(この作品世界ではモトラドといいます)のエルメスとの旅はいつもながらバラエティにとんでいて、価値観やら倫理観、考え方、ものごとの重要性ということについて考えさせてくれます。
それも、面白い物語を読んでいるという感覚のもとに。
この辺が僕がこのキノの旅を特に強くプッシュする点でもあるのですが、ふつう、上記のようなことをメッセージ性を込めて語ろうとすると重かったりわざとらしくなったり一方からの見方だけになってしまうのですが、このキノの旅という作品は、それをたくさんの国を放浪するという形にして、あくまで物語として笑わせたり感動させたりブラックジョークにしながら提示します。まず物語として完成された面白さをもたせた上で、いろいろな価値観や主義主張、イデオロギーなどをさりげなく提示し、それらを判断するのは読者だよ、ということにして決して主人公であるキノにさえもその評価を語らせない姿勢というのは本当にもっともっと評価されていいんじゃないかなと思います。
今作でも、「つながっている国」とか「失望の国」「カメラの国」など感動させる物語があるかと思えば、星新一っぽい落ちのついた「アジン(略)の国」「お花畑の国」など色々なお話が入っています。これは間違いなく買いの一冊です。
しかも、今回は本編とは別に今回もまた「あとがき」で遊んでくれています。「あとがき」で遊ぶのも最近の「キノの旅」の定番なのですが、今回もわかりやすい場所にある筈の「あとがき」(まぁ、普通の本では巻末ですよね)が見つからないというところで読者とゲームをしてくれています。かくいう自分も探し倒しました。というのも、「見つかりにくい」ところにあるあとがきはすぐに見つかったのに「見つかりやすいところ」にある筈のあとがきがなかったからです。本当に、けっこう見つけるのに苦労しました。そんなお遊びも含めて非常に評価の高い一冊です。是非読んでほしい本です。
本嫌いの子供もこれ読めば好きになるかもというくらい読みやすいです。
キノの旅〈11〉the Beautiful World (電撃文庫)
- 作者: 時雨沢恵一,黒星紅白
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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