小説・漫画好きの感想ブログ

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「蛍坂」 北森鴻著

 最近なにかとお酒をいただくケースが増えているだけに、美味しくお酒を飲める相手がいることはもちろん、料理の味はもちろんお店の雰囲気や内装、そしてお店のスタッフの人の気配りや間が非常に重要な要素だなと思うようになりました。昔は、味だったり、料理の質だったり、あとはどれだけたくさんのカクテルや銘柄が揃えられているかという方に重きを置いていたのですが、最近はよりくつろげて、満足できる空間としてのレベルがどうかとかそちらの方が重くなってきました。
 それだけに今日紹介する本に出てくるような理想的な店が近くにあったらなぁと切実に思います。
 
「蛍坂」 北森鴻著

 極上に美味しい料理と、心からくつろげる雰囲気。そして、魅力的なマスターが揃っている理想の店。
 東京は東急田園都市線の三軒茶屋駅にあるという「香菜里屋」、そこがその理想的な店です。細い路地にぼんやりとうかぶ白い等身大の大提灯にうかぶ店名でそれとわかるこのビアバーは、オーナーの工藤が作る天才的な創作料理と四種の度数の違うビールが売りの店なのですが、それだけでなく不思議な謎を奇麗に解きほぐしてくれる店なのです。
 少し不思議なこと、お客の胸の底にひっかかった何か、自分が巻き込まれた不思議な出来事の真相。それらが、アームチェアディティクティブの極みのような工藤の推理力によってきれいに解かれます。ふとした言葉、行動を工藤は決して見逃しません。決してハッピーエンドだけの結末とは限りませんが、謎の解決とともに一つの決着と心の平安がもたらされます。
 短編連作集ですが、どの作品にも味わいと余韻があってとてもおすすめです。
 本書は、『花の下にて春死なむ』『桜宵』に続く、シリーズ第3作目になるのですが、巻を増すごとに作品に奥行きが出て来ていて、ますますシリーズは面白くなっています。そして嬉しいことてに、巻末の解説で、次巻では店の主人の工藤の過去が語られるようでそれも楽しみです。
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螢坂 (講談社文庫)

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