小説・漫画好きの感想ブログ

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「水滸伝 十二 炳乎の章」 北方謙三著 

 おはようございます、樽井です。
 今日は明日が休みということで帰宅しない可能性もかなりあるので、いくつか本の紹介をしていきたいと思います。難航している本などは順番が前後したりもしますが、基本的にはだいたい順番にいきたいと思います(何故だかアーヴィングの「ピギー・スニードを救う話」が難航しています。嫌いな作家さんではないのに何故かな)。
 
 本書、炳乎の章は、いよいよ折り返し地点を越えて物語も佳境に入って来た北方水滸伝の十二巻になります。
 物語は前巻の衝撃のラスト、梁山泊の首領の一人の晁蓋が毒矢で暗殺された直後から始まります。今後の梁山泊のあり方、官軍といつ全面戦争に突入するのかで意見がまっぷたつに割れていた宋江と晁蓋でしたが、よもやの志半ばでの晁蓋の死に、もう一人の首領の宋江も激しく落ち込み、梁山泊の主要人物たちも悲しみにくれます。とはいえ、戦時下のこと、彼らの誰一人としてそれを表に出す事はないのですが、それが故に余計に彼らの悲しみ苦しみが伝わって来ます。 
 戦争をしているのだから、いくら主人公側の人間だからといって死なないわけはなく、今迄も石勇を始めたくさんの人物が死んでいきましたが、やはりトップの晁蓋の死は読んでいる側にも大きな衝撃でした。物語もその悲しみの淵から始まります。そして、そこにおいうちをかけるように、梁山泊の資金的な生命線である塩の道を一人で動かしていた盧俊義にも朝廷の諜報機関の青蓮寺の魔手が迫ります。
 間の悪い事にボディガードである燕青が彼から離れている時に、彼は連れ去られ拷問にかけられます。口を割らず死ぬこともままならない盧俊義を救う為に、燕青は決死の救出行を敢行し、梁山泊も初めての全面戦争に突入、副首都といってもいい大名府を一時的に陥落させます。いよいよ、単なる一地方の反乱分子、厄介な反政府集団から、大都市に真っ向から戦闘をしかける一大勢力と化した梁山泊と宋の闘いは激しく、また双方に甚大な被害を与える大争乱の様相を呈して来ます。
 最初の頃のように、人を集めていく、集まっていくところに楽しさもあった水滸伝ですが、ここからはお互いの志と意地と国のありようを賭けての戦争がメインになってきます。そのあたりが血湧き肉踊るところでもあり、今迄の物語で思い入れをもった登場人物たちが次々と死んでいくことに胸が痛み読むのが苦しくなっていく点でもあります。 
 読んでいるときにふと、本当の戦争になると主要な人物でさえこうで、名もない一兵士なんて見せ場どころか意味も価値もなく死んでいくのだなと妙なところで考えたりした本書、待ちに待った甲斐ある面白さでした。シリーズを読み始めるまでは一ヶ月に一冊の刊行ならあまり続きを待たなくても大丈夫だろうとたかを括っていましたが、今では一ヶ月に一回でさえ待ち遠しすぎる状態になってきました。これ、ハードカバーの時に待っていた人は大変だっただろうなぁと思います。
 

水滸伝 12 炳乎の章 (集英社文庫 き 3-55)

水滸伝 12 炳乎の章 (集英社文庫 き 3-55)