小説・漫画好きの感想ブログ

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バルタザールの遍歴 佐藤亜紀

 
 おはようございます。樽井です。
 今日は帰って来てからちょっと意外なニュース、というか面白い報告ができるかと思うのですが、それはちょっと説明が長くなるので帰って来てからのお楽しみということにしていただいて、最初の話題は、安倍晋三さん抜きで内閣総辞職もありうるかもという話題。
 小渕さんの時以来のことになりますが、首相不在のまま新しい組閣となると、内閣は一旦総辞職になりますが、これに安倍さんが出れないかもとう話です。となると俄然不可思議なのは安倍さん。確かに体調が悪いんでしょうけれど、一週間以上本人がまったくマスコミの前にも現れないこの異常事態には何か裏があるのではと思えて来ます。うつ状態がひどくなりすぎているのか、ひょっとしたら、まさかとは思うけれど自殺未遂という話とか。
 突然のあの辞任劇からもなにかトラブルがあったのかも知れません。
 さて、それはそれとして、先日の「ミノタウロス」の書評で出していた佐藤亜紀の作品をちょっと紹介しておきます。この本は、ものすごくいいんですよ。

 『バルタザールの遍歴』 佐藤亜紀著  

 全日本ファンタジーノベル大賞の第二回大賞作品がこの「バルタザールの遍歴」という作品です。
 この作品は第二次世界大戦直前のウィーンとバリをメインの舞台にした作品です。主人公は、メルヒオール・フォン・エネスコ公爵。という公爵、はやい話がハプスブルグ系の貴族なわけですが、主人公が大きくなる前に王制は倒れ、貴族だからといって貴族然としているだけではいけない時代に入ろうかという時代に彼らは生まれました。今、彼らと書いたのは、この主人公メルヒオールが、実は双子でバルタザールという人物も同じときに生まれたからです。さて、このバルタザールとメルヒオールは、通常の意味では双子ではありませんでした。外見的にはただ一人に見えます。しかし、その実、彼らのただ一つの体の中には二つの精神が宿っていたのです。
 というと、二重人格とかそういう話かと思うかも知れませんが、そうではなくて、彼らの体の中にはまさに二人の人物が住んでいたのです。なんとなれば、彼らは場合によっては、他人に見える形で見かけ上は二人に分かれることが出来たのです。もっとも、他人の生気を吸い取っていなければ、体からでていっている方はゆっくりと衰弱していくのですが。いうなれば、彼ら、バルタザールとメルヒオールが別れるときには出て行く方は魂を実態にかえてでていくのです。それが証拠にでていった方は鏡にうつらないという奇妙な、まるで吸血鬼のような特性を持ちます。
 それはさておき、そんな彼らバルタザールとメルヒオールはなかなか世間にはまともに見てもらえません。なにせ見かけは一人なのに「僕たち」という呼称を使うのですから、よくて悪ふざけ、悪くて狂人扱いされます。しかしまぁそこは公爵、貴族ですからそれもはばかられて(もちろん財産の力もくわえて)波瀾万丈な生涯を送るわけです。そんな彼らにもとある転機が訪れます。それは父の死です。父が死に、残された美しい彼らとそう年のかわらない後妻と関係ができてしまうと彼らは良心の呵責と痛みから、そしてちょっとした策略から一気に人生を坂道を転がるように転落していきます。 
 そのあたりをウィーン、パリ、マグレブなどの習俗や景色を織り交ぜながら描いていくのですが、この佐藤亜紀という作家の筆力がべらぼうに凄くてこれがデビュー作だとは思えないほどです。完璧に海外作品のような自然さで、外国の貴族の流離譚を描ききっています。この後にも何作か彼女は作品を発表するのですが、そのどれもが素晴らしく、文章に酔うというのはこういうことかという感じで文章を読ませてくれます。読むことが素晴らしく楽しく感じる。何か極上のお酒でも飲んでいるような感覚に浸らせてくれる、彼女はそういう力をもった作家なのです。
 話を戻して、そういう物語ですからたぶんに退廃的ですが、ここちよい退廃といいましょうか。美しく、しかし十二分にエネルギッシュでかっこよく没落していく様が読み手を引き付けてやまない作品です。是非読んで欲しい作品です。
 ただ、最初は講談社から出ていたのですが、、、版元といろいろ事件がありまして、今は違う版元の文春文庫でこの本は出ています。

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

バルタザールの遍歴 (文春文庫)