小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

ミノタウロス 佐藤亜紀

 おはようございます。
 昨日書いたように今日からはまたちょっとちょっと書評等で復活していきたいと思います。仕事の方も相変わらず忙しいのでそんなにめちゃくちゃなんでもというわけにはいきませんが、プロ野球のペナントレースの行方に一喜一憂しつつ(そういえば昨日の野球関係の話の中でヤクルトの古田監督の話をスルーしてしまいましたが選手権監督という野村さん以来の珍しいポジションの成果をだしてくれることを期待していたのですが残念です)、頑張ってみたいと思います。
 さて。

 今日紹介するのは、佐藤亜紀「ミノタウロス」です。
 佐藤亜紀さんは、自分の文芸的アイドルの一人で、圧倒的な筆力とちょっと昔のヨーロッパ社会を書かせたら右に出るもののいないほど描写に長けた方なので、今度の作品も生まれて初めてアマゾンでお取り寄せしてしまったくらい期待して読み始めました。
 しかし、今回のこれは正直重いです。
 悪くない作品だとは思うのですが、一般受けするかとかおすすめしやすいとかというと疑問符がつきます。ロシアの革命前後の話ということで、混乱したロシアの田舎町での革命と内乱の嵐の中で主人公たちの生活が描かれているのですが、その生活が限りなく無茶苦茶で陰鬱なのです。確かに戦争の間ということで人の命なんてあってなきがごとしの状況ではあるし、生きていく為には騙し合わなきゃやってられないんですが、強盗、追いはぎ、戦争屋、まだ十代の彼らは強引さと狡猾さで色々なことをしながら三人で力を合わせて生き伸びます。生きる為にはそれこそなんだってするし、状況によっては、殴られ、瀕死の重傷を追い、仲間同士で裏切ったりもしながらなんとか生き伸びて衝撃的な最後を迎えます。
 今の平和な日本にいるからこそ感じることなのかも知れませんが、完全な階級社会があって奴隷があって貴族たちがいて人間の価値が全然違う世界というのががっしりとあったはずが革命が終わるとそんなものは消し飛んで、ただただ力、暴力、腕力、残酷さのみが力をもち、弱いものは殺され犯され略奪の限りを尽くされる世界、外国人もそこに入り込んでくる世界。そういう中でじゃあ正しく生きられるか価値観をしっかりもてるか倫理感をもてるかというと、やはりそれも無理な話で、そういう意味ではこれは極めてリアルにありうる話なのだと思えば余計に割り切れなく、日本の今は幸せなのだろうと思います。たとえストーカーの上で女性を射殺する警官がいても、父親を斧で殺す16歳の少女がいても、それでもなおやはり自民党内の首相候補対決が新聞のメインを飾る日本は平和なのだと思わずにいられません。
 それくらい、この物語はトーンが暗く、主人公たちがそれなりに文化的な生活をしようとすればするほど時に見せる純情を見ればみるほど辛く、読み進めるとやりきれなさが募ります。それを最後まで読みきらせる佐藤亜紀の圧倒的な筆力には脱帽しますが、一般受けは絶対にしませんので、佐藤亜紀を未読だという方には他の「バルタザールの遍歴」や「1809」「天使」、或いは「モンティニーの狼男爵」を先に読んでいただきたいです。

ミノタウロス

ミノタウロス