小説・漫画好きの感想ブログ

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蘆屋家の崩壊 津原泰水

 タイトルだけ読むと、読む気が失せる本というのがある。
 あまりにも下らない駄洒落や、即物的すぎるタイトルの本はどうしても敬遠してしまう。もちろん、それがとことんまでふっきれているとあまりの馬鹿馬鹿しさにまた読んでみようかなという気になったりもするのだが、基本的にはお馬鹿タイトルの本は損をしていると思う。
 (何年か前に出てた「馬鹿☆テキサス」なんて本当に損してた。今にして思えば「らき☆すた」同様に☆をはさんだ萌え的なタイトルの本なんだけれど。←しかし☆をはさんでも「つのだ☆ひろ」はかわいくないけれど。)
 例えば、最近でいえば、『キル・ミー・テンダー』これはつい最近出た文庫本のタイトルだけれど、主人公がエルビス・プレスリーで彼が探偵役をやるというところで、これが「ラブ・ミー・テンダー」の語呂合わせだとわかると、う〜〜んと唸ってしまう。いいのか、それで? と。古いところで言うと、「シャーロックホームズ対火星人」というのは、あまりの馬鹿馬鹿しさにちょっと読んでみようかと思ってしまう向きもあるかも知れないが、まぁ普通の人は敬遠するだろう。
 今回紹介する本も、タイトル的にはそれに近い。
 『蘆屋家の崩壊』。こんなん誰が見たって『アッシャー家の崩壊』をもじったタイトルだというのはあまりにも露骨すぎて、ちょっと普通は敬遠する。僕も実際数週間は敬遠した。
 けれど。これが面白かったし、当たりだったんだから本の世界は奥が深い^^


『蘆屋家の崩壊』 津原泰水著   集英社文庫


 主人公は、ちゃんとした定職につかずにあれやこれやのやっつけ仕事をしている男で、彼がひょんなことから知り合った「伯爵」という綽名を持つ色白の怪奇小説家と旅をすると、なぜだか決まって怪異現象がついてきます。それこそ人死にや行方不明は当たり前の怪奇現象のオンパレード、果ては夢の中までそれは続きます。
 こう書くと、すわ「伯爵」は吸血鬼かなにかなのかと思われそうですが、そんなことはまるでなく、伯爵が言うには主人公自身が不思議を呼び起こす体質にすぎなすしのこし。実際、この短編では主人公が伯爵と出会う以前に体験した怪異も描かれて、主人公ではなくてあくまで伯爵が怪異を呼び起こすのだと名言されています。
 とはいえ、この二人が行くところには怪異がこれでもかと起こり、二人はそういう不思議な事件に立ち会います。そして、どちらが原因かはわからないものの、二人が旅先で出会う幻想的かつ怪奇な物語を綴ったのがこの短編連作小説ということてで、その一遍一遍がバランスも奇妙さ具合も実にいい味を出していて、ひさしぶりに味のある短編を読んだなと満足感が高かったです。
 今流行りのサイキックアクションも、特殊な護符も、霊能力の発動もなく、あくまで等身大の主人公が、悩み苦悩し翻弄されるさまがとても昔懐かしく正しい幻想小説ぽくて良かったです。
 日本霊異記みたいなんて書くと言い過ぎだけれど、主人公が夢にとりこまれてしまう掌編は、なかなかせつなく泣かせるシーンもあったりしてお薦めの仕上がり具合です。この方も遅筆であまり見ない作家さんですので、手にいれられるうちに読んでみてください。
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蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

 さーて。スタートレックのDVDでも見ながら寝よう。