小説・漫画好きの感想ブログ

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沙門空海 唐の都で鬼と宴す 巻ノ四 夢枕獏

 
 こんばんは。
 変な時間に目が覚めてしまいました。
 今日は曇っていたので外をみてもただただ暗闇でなんだか変な気分です。せめて雨音が聞こえるとかおぼろ月夜とかであれば風情もあるのですが、ただただ闇です。猫の雅も熟睡して死んだように眠っています。まったくの無音なの中でパソコンのキーをかたかたと叩く音だけが響いています。まるで夢の中のように、何か一枚世界と自分との間に膜がかかっているかのような感じがあります。
 さて。

 いよいよ、第四巻、完結編です。
 沙門空海と橘逸勢遣唐使としてやってきた長安の都で、巻き込まれた唐王朝の秘事、玄宗皇帝と楊貴妃の物語もいよいよ幕を閉じます。前巻までで、現在の唐の都で起きている怪異の根っこの部分に、五十年前の楊貴妃の殺害が大きく絡んでいることを突き止めた二人が、今回はその事件に決着をつめるため清華宮に赴き、宴を催します。清華宮は、玄宗皇帝と楊貴妃が愛の日々を過ごし、この世の物とは思えない贅を尽くした日々を送った地です。
 深夜の宴に現れたのは、当時の事件の中心人物である楊貴妃、黄鶴、丹翁、白龍。そして空海と橘逸勢に、白楽天と玉蓮、加えて大猴。彼らが月明かりのもとだ呪術合戦とそれぞれの告白をもってすべての因縁に終止符をうちます。
 伝奇ものにふさわしい呪術合戦や、実際の殺し合いなどもあるのですが、それでもこの宴は悲しい「時の流れ」をひしひしと感じさせるという意味合いにおいて他の作品とかなり赴きが異なります。それぞれがそれぞれの想いをもって生きてきた重み。それも仮面をつけて暮らしてきた普通の生活を営めない人たちだけに、いろんな日常生活でのあれこれがなく、全てが自分の妄執の中にあるだけにそれが限りなく重くあるんですけれど、それさえも時の流れの前では小さなものに見えて来ます。  
 全ては結局流転していくものであるとしみじみとした心持ちになります。
 そういう意味では、空海がこの物語の主人公である意味があまりないのではと書きましたが、ここにきて、物語各所で空海が主人公故に語られる仏法的世界観がばちりと作品にはまりこみ、一番の効果をあげていました。このシリーズを読む前に期待していた、激しい冒険物語とは内容が異なりましたが、読み終えてみればしみじみといい物語であったなと思います。
 最後の最後に白楽天が別れの歌として、有名な長恨歌を歌いますが、これがまた物語の厚みが加わって素晴らしく心に響きます。この本は、夢枕獏が全てが完成するまでは本にしないとしたことによって、17年間の間、連載が終了するまで出版されませんでした。途中、四度も掲載誌を変えながらの連載でしたが、よくぞここまで粘ってくれたものでした。それくらいのよい出来です。