小説・漫画好きの感想ブログ

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墨攻 酒見賢一

 おはようございます。樽井です。
 けっこう、今日はバタバタの一日で出勤もいつもより早いです。ニュースチェックもできてないような状況です。頭に入っているのは大阪はまだまだ暑い日が続くということくらいです。地球温暖化は本当に厳しいです。皆さんも熱中症には気をつけてくださいね。

 『墨攻』  酒見 賢一著  新潮文庫 

 現代の小説家の作品の作品の中でも、稀にごくごく薄い小説が出る。
 エッセイだとかレシピ集などであれば珍しくもないが、小説というのは珍しい。いまはどちらかというと、長い小説がだんだん多くなっている。一昔前には、小説本といえばだいたいは原稿用紙400枚で一冊というのが通り相場であったが、最近ではそんなのの方が珍しいくらいになってきた。ひょっとしたら、最近の文庫本は字のサイズが圧倒的に大きくなっていっているので、余計に分厚くなっているのかも知れないが、そうでなくともやはり長い話がはやりである。
 しかし、この本は極めて薄い。
 珍しいくらいに薄い。しかし、それだけによく出来た一つの寓話のような物語に仕上がっている。

 舞台ははるか昔。中国の春秋戦国時代
 この時代は、中華に散らばる各国がそれぞれ力を尽くし合従連衡を繰り返したり、はたまた権謀術策の限りをつくして戦いを繰り広げていた時代で、強い国が弱い国を攻めとることが半ば常識というような時代であった。そういう中で、さる大国に攻め込まれた城と、その城を守るべく、墨家と呼ばれる思想家の集団から呼び出された革離という男の話である。
 僅か守備兵が150人ほどしかいない小城(といっても当時の城は、日本の城とは違って城の中に住民がすみ、周囲に畑がある城塞都市ではあるが)に、攻め手としてやってくると言われるのは趙国の2000人近い生粋の侵略軍。どう考えても勝ち目もなければ、数日持ちこたえられるのもやっとかといったような勝負にもならない状況。しかも、本国中央からの援軍がないことが確定しており、墨家から派遣されてきたのは僅かにただ一人の男だった。
 城主の息子は、革離のことも援軍がただ一人だという事実もこみで苦々しく思うが、父である城主が彼を受けいれたことでしぶしぶ彼のことを受け入れざるを得なかった。革離は、城を守る為に必要だ、とすべての権限を自身に掌握して城を強固な要塞にするとともに、一般市民をすべて防衛隊に組み入れて行く。普通ならありえない事態だが、どうせ城が落ちれば皆殺しにされる、と説得された一般市民は厳しいながらも賞罰のしっかりした彼の軍団に組み入れられていく。そして、彼の指導のもと、城は見事な迄に落ちず、ひと月、ふた月、そして半年と持ちこたえる。
 しかし、情報では半年篭城に成功すれば、侵略軍は引き返すし筈だったが、どうしたわけか彼らは居座り続ける。しかも強力な攻城兵器までもが敵の首都から送られてきた。減って行く糧食や過度のストレスから高まる城内の不満をかわしつつ、革離は防衛戦に心血を注ぐが・・・
 いろいろな読みができるこの作品、寓話めいたあっけない終わり方をする。
 その善し悪しは好みといってもいいかも知れないものなのでここでは触れないが、作品としては十分に完成している。
 また、この作品は一昨年末に映画化したようである。ちょうど映画にあう長さの作品で、どのような作品になったのか楽しみなところである。

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)