ウニバーサルスタジオ 北野勇作
こんにちは、樽井です。
部屋のかたづけをしているとあっという間に時間がたちます。いつもながら、こんなことを毎日くりかえしきちんとゃっている主婦の方に脱帽です。この上に食事や育児なんて絶対に自分は手がまわりません。猫の一匹でもう大変です。
さて。
今日はお待たせいたしました、北野勇作のウニバーサルスタジオです。
舞台は近未来の大阪。
ここにウニバーサルスタジオという、アミューズメントパークがあります。もちろんのことながらUSJ、大阪ユニバーサルスタジオのもじり、だじゃれです。このだじゃれ、落語的にいうと地口は関西ではとても重要な要素で、これなくしては大阪では会話も成立しないのは皆さまもご承知の通り。ビジネスの重要シーンでも使うし、ことは大人の世界だけはなく、子供の世界にあっても、近畿地区でのいじめの原因の第一位は、面白くないから、です。大阪ではルックスもさることながら、会話や笑いのセンスがなければつきあう相手を見つけるのも苦労のし通しです。そういう関西、わけても現実の大阪をフィードバックして、ユニバーサルスタジオを最初のとっかかりと舞台としてだじゃれやジョーク、シチュエーションコメディ、パロディをこれでもかこれでもかと投入したのがこの小説です。
故に主人公はいません。普通、小説といえば曲がりなりにも主人公があって、それがさまざまな経験や体験をつんで、その中で読み手が感情移入してゆくものと相場が決まっています。昔懐かしい起承転結ではないですが、そういうものです。そういうお約束がこの小説はありません。ウニの形をかたどったウニバーサルスタジオというアミューズメントパークを舞台にその観光案内や、内部スタッフの話、メタなレベルでの世界が本当に存在しているかいないかというSF的アプローチ、そういうものをやりながら、ケンタッキーフライドチキンでおなじみのカーネル・サンダースがテロリストとして活躍していたり、大阪の中心部の梅田の語源の埋め立て地の「埋めた」土地を逆手にとって、泥沼の中にカエル人間とヒトとの戦いが描かれていたり、エヴァンゲリオンのような巨大生物兵器として道頓堀のグリコの巨大ランナーが動いたり、もうこれでもかというぐらいパロディやアイデアが投入されています。
そのアイデアの投入の中では、時間や話の矛盾や脈絡も完全に断ち切られています。短い章立ての中で話がつながっていたり、いなかったり、前とまったく矛盾したりということが他の北野作品同様に起こります。しかし、これが北野作品の特徴と考えれば北野テイストはあいかわらず健在です。そしてそれらのスパイスに自虐的な阪神タイガースネタがちりばめられています。
ただ、そのようにあまりにも大阪的(こういうたとえがまた分からないかも知れませんが、吉本新喜劇よりも中島らもの馬鹿話よりもぐだぐだです)な作品だけに好き嫌いは非常に別れると思います。全然ダメじゃんという人もいると思います。けれど、樽井的にはプッシュします。
強いて類似しているようなものを挙げるとすれば、主人公をしっかりと据えて同様にパロディや懐かしいものをどんどん投入した恩田陸の「ロミオとロミオは永遠に」よりも、こちらのほうを推薦します。
- 作者: 北野勇作
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/08
- メディア: 文庫
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